はじめに
生命保険の活用は、もっともポピュラーで、実行しやすい相続税対策のひとつです。
しかし、受取人の設定や保険料の支払い方法によっては、有効な対策とならず、むしろ税金が高くなり損をしてしまうケースもあります。
そこで本記事では、相続税対策における生命保険の活用のポイントや注意点について、簡潔に解説したいと思います。
なお、本内容は相続税が発生することを前提とした一般的なケースを想定しており、そもそもの財産が基礎控除以下の場合等は、影響がないこともありますので、ご留意ください。
生命保険にかかる税金
生命保険については、下記のような契約の形によって、相続税・所得税・贈与税の3種類の税金がかかります。
例示① 保険料負担者:夫 被保険者:夫 受取人:妻 → 相続税
例示② 保険料負担者:妻 被保険者:夫 受取人:子 → 贈与税
例示③ 保険料負担者:妻 被保険者:夫 受取人:妻 → 所得税
契約者ではなく保険料負担者に注意!
生命保険ついては、契約者ではなく実際の保険料負担者で課税関係を判断することになります。
例えば、契約者は子供の名義、実際の保険料の支払いは親が保険会社へ直接支払っているような場合は、名義保険と呼ばれ相続財産の対象となってしまいます。
子供や孫の保険料を支援したい場合は、現預金による暦年贈与を行い、契約者本人が保険料の支払いを行うようにしましょう。
相続税における生命保険の非課税
例示①のように、保険料負担者=被保険者の場合における死亡保険金については、下記限度額まで、相続税の非課税が設けられています。
非課税限度額=法定相続人の数×500万円
ただし、保険金の受取人が複数いる場合、非課税になる金額は、その受け取る保険金の割合に応じて分配されます。
つまり、相続発生後に、自由に決めることはできません。
活用ポイント① 保険金受取人は配偶者ではなく子供に!
生命保険の非課税は、受取人を誰にするかによって、有効な相続税対策となる場合と、ならない場合があります。
相続税の税負担対策として有効となる受取人は、一般的に配偶者ではなく、子供となります。
理由は、配偶者に対しては最低でも1億6000万円までは、相続税の非課税の特例(配偶者の税額軽減)が、別枠で設けられているからです。
この非課税は生命保険金も含め、配偶者が相続した全ての財産が対象となっています。
したがって、そもそも配偶者に対しては、相続税が課税されないことがほとんどです。
そのことから、もともと1億6000万円までの非課税枠を持っている配偶者ではなく、子供に対して、生命保険の非課税枠を使うほうが有効となります。
前述のとおり、相続発生後に非課税を使う相続人を、自由に決めることはできないため、生前のうちに、受取人を配偶者から子供にしておく必要があります。
活用ポイント② 保険金受取人を孫にするのはやめましょう!
生命保険の受取人を孫にしてしまうと、むしろ相続税が高くなり、損をしてしまいます。
理由は、次の3つです。
理由① 非課税にならない
孫が受取人となる生命保険は、非課税になりません。
生命保険の非課税枠は、受取人が法定相続人である場合に限り、使うことができます。
相続人ではない孫や、その他の親族を受取人とした生命保険は、たとえ非課税枠以内であったとしても、非課税にはなりません。
※代襲相続の場合、又は養子縁組をした場合は、孫が法定相続人になる。
理由② 生前贈与3年内加算
孫が生命保険を受け取ると、亡くなる前3年以内に行われた孫への贈与が、全額相続財産となってしまいます。
生前贈与の3年内加算は、相続税逃れを防ぐために、相続人である配偶者や子供に対する3年内の贈与分は、相続財産とするというルールです。
孫はその対象から本来は外れていますが、生命保険金を受け取ったことで3年内加算の対象となり、非課税で贈与できていた現預金等についても、相続税を払うことになってしまいます。
理由③ 相続税の2割加算
孫が財産を相続した場合、相続税は2割加算という制度の対象となり、通常支払う相続税の1.2倍の金額で支払わなければなりません。
したがって、①の理由により非課税とならなかった生命保険金、及び、②の理由により3年内加算された現預金等に対する相続税は1.2倍となります。
※孫が代襲相続人の場合は2割加算の対象外。
おわりに
生命保険は相続税対策に有効な手段の一つではありますが、受取人の指定等によっては思わぬ課税が生じてしまうことが、少しはご理解いただけたでしょうか。
相続税と贈与税の抜本的な改正が騒がれているところではありますが、生命保険や生前贈与による相続税対策は、現状はまだ有効です。
間違った使い方とならないよう、少しでも今後の対策にお役立てください。